「越冬の安全地帯」が一転して感染の温床に:ヨセミテヒキガエル幼体、春の出洞時に9割超が致死性カエルツボカビに感染

「越冬の安全地帯」が一転して感染の温床に:ヨセミテヒキガエル幼体、春の出洞時に9割超が致死性カエルツボカビに感染

科学健康

データソース:Science News + Phys.org (UCLA)

厳しい冬が訪れると、人々は窓を閉ざし、暖房をつけて寒さをしのぎ、外で流行するインフルエンザなどの感染症から身を守る。寒冷な気候や厚い雪の層は病原体を遮断し、脆弱な生命を守る安全な防壁になると私たちは直感的に考えがちだ。

カリフォルニア州にそびえるシエラネバダ山脈の高山帯で、オタマジャクシから変態したばかりの小さなヒキガエルたちも、まったく同じように行動していた。極寒の冬が来る前に地下数フィートの穴へと潜り込み、吹雪や氷点下の寒さを耐え抜こうとする。しかし、春の雪解けとともに地上へと這い出てきたとき、彼らを待ち受けていたのは新たな命の芽吹きではなく、死の罠だった。

体長5センチに満たない幼体、寒波を逃れ地中の巣穴へ

ヨセミテヒキガエル(Anaxyrus canorus、体長わずか 2.5〜7.6 cm の高山性両生類)は、カリフォルニア州の固有種である。成体でも人間の指の半分ほどの大きさしかない。生息地の減少と感染症の猛威により、2014年に米国の絶滅危惧種法(ESA)で「絶滅危惧(Threatened)」に指定された。その生息域は極めて限定的で、ほぼヨセミテ国立公園、セコイア・キングスキャニオン国立公園の高山湿原にのみ分布している。

毎年晩秋、高山の気温が急降下すると、変態を終えたばかりの幼体たちは過酷な試練に直面する。体液の凍結を防ぐため、彼らは齧歯類が残した古穴などを利用して地下深くへと潜り、分厚い積雪の下で冬眠(不活性状態)に入る。体長5センチにも満たない小さな生命にとって、地中の巣穴は厳しい冬を生き延びるための唯一の避難所のように思われていた。

UCLA研究チームが1,800検体を分析、雪解け時に暴かれた衝撃の事実

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームはヨセミテ国立公園と共同で、長期的な野外追跡調査を実施した。2021年から2023年にかけて、標高数千メートルの高山湿原に位置する6か所の観測地で、さまざまな成長段階にあるヒキガエルの皮膚スワブ(ぬぐい液)検体を計1,800件採取した。これらの検体は、新型コロナウイルスの検査でもおなじみのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を用いてスクリーニングされた。

野外調査を行うUCLAの生態学者 Dave Daversa 図:ヨセミテで野外調査を行うUCLAの生態学者 Dave Daversa。提供:Phys.org(Dave Daversa)

冬眠前後のデータを比較した研究者たちは、驚くべき対比を目の当たりにした。秋、冬眠に入る前の幼体における陽性率は約23%にとどまり、大半の個体は健康に見えた。ところが翌年の春、雪解けとともに穴から出てきた幼体たちを調べると、陽性率は90%以上に跳ね上がり、その多くが重度の感染状態に陥っていた。対照的に、水場で繁殖活動を行う成熟した成体の感染率は半分にも満たなかった。

高山湿原で調査を行うUCLAの学部生 Molly Posta 図:高山湿原でサンプルを採取するUCLAの学部生 Molly Posta。提供:Phys.org(Dave Daversa)

従来の常識を覆す:致死性のツボカビが氷点下近い雪下の「陸上」で大増殖

幼体たちを生命の危機に晒している元凶は、カエルツボカビ(Batrachochytrium dendrobatidis、通称Bd)である。両生類の皮膚を侵し、水分や電解質の吸収を阻害して致死的な心不全を引き起こす恐ろしい真菌だ。世界中で500種以上の両生類を激減させ、約90種を絶滅へと追いやったとされる。生物学界では長年、ツボカビは主に水中で伝播する病原体であり、春夏の水場での繁殖期が最大の感染リスク期だと信じられてきた。

しかし、ヨセミテの高山湿原で得られた知見はこの定説を完全に打ち砕いた。ツボカビの爆発的増殖は水場ではなく、冬のあいだ地中の巣穴という「陸上」で起きていたのだ。筆頭著者のデイヴ・ダヴェルサ(Dave Daversa)は、この結果は完全に予想外であり、従来の常識を根底から覆すものだと語っている。共著者のブラッド・シェイファー(Brad Shaffer)も、積雪下の極低温の陸上で真菌が増殖していた事実は生態学上の巨大な驚きであると強調する。

冬眠で免疫が停止、避難所が病原体の「培養器」と化す

なぜ、安全であるはずの地下の巣穴が感染の温床となってしまったのか。冬の間、巣穴は数メートルの深い雪に埋もれるため、内部を直接観察することは不可能に近い。しかし生態学者たちは、極めて論理的なメカニズムを提示している。第一に、一部の幼体がごく微量の検出限界以下の感染を抱えたまま穴に入り、長い冬の間にそれが増殖した可能性。第二に、寒さをしのぐために複数の幼体が同じ狭い穴に密集して身を寄せ合うことで、激しい接触感染が生じた可能性である。

地下の巣穴で身を潜めるヨセミテヒキガエル 図:地下の巣穴に潜むヨセミテヒキガエル。提供:Phys.org(NPS / Sara Gabel)

そして決定的な生理学的要因が、宿主と病原体の「耐寒性のギャップ」にある。氷点下近くに冷え込む地下において、変温動物であるヒキガエルは代謝と免疫機能が劇的に低下し、無防備な状態となる。一方、ツボカビも低温で活動が鈍るものの、死滅することなく成長を続ける。つまり、動物側の免疫が低下するスピードが真菌の増殖鈍化を上回るため、静寂な冬眠穴がツボカビにとって格好の増殖炉と化してしまうのだ。

保全チームが放流戦略を転換:成体まで育ててから野生復帰へ

この発見は、病原体の感染動態に対する理解を刷新しただけでなく、絶滅危惧種の保全活動の現場にも根本的な見直しを迫った。これまでサンフランシスコ動物園と国立公園局が進めてきた飼育下繁殖プログラムでは、孵化して変態を終えたばかりの幼体をそのまま高山湿原に放流していた。自然の冬眠環境に早く慣れさせようという意図だったが、結果として、抵抗力のない幼体たちを病原体が満ちた地中の温床へと送り込んでいたことになる。

冬眠期の感染リスクが明らかになったことを受け、保全チームは直ちに戦略を転換した。現在では、人工飼育下で数年間じっくりと育て、免疫力と体力が十分に備わった成体へと成長させてから野生に放す手法が採られている。これにより、もっとも脆弱な「最初の冬眠」という危険な感染ウィンドウを回避し、ヨセミテヒキガエルの個体群再生に大きな希望をもたらしている。

地下の巣穴で厳しい寒さをしのぐことが、必ずしも生存を意味するわけではない。雪の下の冬眠穴は致死性真菌の隠れた温床となり、目覚めたばかりの幼体たちを重篤な感染へと追いやっていた。四季の移り変わりの中で病原体が真に潜む場所を突き止めてこそ、絶滅の淵に立つ野生生物を護る実効性のある盾を築くことができるのだ。

参考リンク:

  • Science News 報道
  • Phys.org(UCLA)プレスリリース
  • Functional Ecology 論文原文