20Vの電動ドリルでキックボードを電化、時速16キロの走りと「工作の主権」

20Vの電動ドリルでキックボードを電化、時速16キロの走りと「工作の主権」

ハードウェア改造3Dプリントメイカー工学機械設計

データソース:HN + web research

2026年10月12日、エンジニアのEddie Abbondanzioがパドックでの移動手段として自作した乗り物を公開した。一般的な20V家庭用電動ドリルで駆動し、大人が乗った状態で最高時速約16km(10 mph)に達するキックボードだ。彼はオートクロス(ジムカーナ競技)の会場で頻繁にコース設営や裏方作業を担当しており、周囲が電動キックボードで颯爽と移動する姿を横目に、手元の手動キックスクーター「Razor A5 Lux」で歩き回る日々にうんざりしていた。市販の安価な電動スクーターを購入すれば数百ドルで済むが、それでは古いキックボードがガレージで埃を被るだけになる。彼は古いスクーターと電動ドリル、そして3Dプリンターを「素材」と捉え直し、再構築することを決めた。たとえ金銭的には1セントも節約できなくても、である。

20V電動ドリルをそのまま投入、三電系の自作を完全スキップ

小型EVを自作する場合、最大の参入障壁となるのが「三電系」と呼ばれるモーター、電子スピードコントローラー(ESC)、リチウムバッテリーパックの調達と組み合わせだ。商用製品ではこれらが強固に車体へパッケージングされており、1つのパーツが故障しただけでアセンブリ全体の交換を余儀なくされる。Abbondanzioは地元の工具店Harbor Freightに駆け込み、Hercules 20Vコードレスドリルを1台調達した。モーター、減速ギアボックス、無段変速トリガー、着脱式バッテリーが最初から一体化された既製品だ。ホームセンターの棚に並ぶ完成された電動工具は、それ自体が高度にモジュール化され、いつでも別の用途に転用できる超小型パワートレインにほかならない。

完成した車両とフロント駆動アセンブリ 図:完成したキックボードとフロント駆動アセンブリ。電動ドリルからキー付き回転軸とワンウェイベアリングを介して前輪へ動力が伝達される。出典:Eddie Abbondanzio

彼はドリルをフロントフォークの側面にブラケットを溶接して固定し、自身の愛車であるホンダ・シビックと同じ前輪駆動レイアウトを採用した。ドリルの出力トルクは過剰なほどで、ギアの作動音も賑やかだ。高速ギアに入れるとバッテリーへの負荷が大きすぎるが、低速ギアなら成人男性を乗せて時速16kmで力強く走り、緩やかな上り坂も失速せずに登り切る。5Ahのバッテリー1本で約3.2km(2マイル)走行できる。ドリルが終始フル回転するため長距離巡航は無理だが、パドック内の移動用としては申し分のない航続距離だ。

200mmのキー付き回転軸とワンウェイベアリングで空転ロックを解消

電動ドリルをホイールに直結する際、最大の機械的難関となるのが「コースティング時のバックドライブ・ロック」だ。電動ドリルの内部には高減速比の遊星ギアが組み込まれており、強い引きずり抵抗がある。もしドリルのチャックと車輪の軸をリジッドに直結してしまうと、スロットルトリガーを離した瞬間に停止したドリルによって前輪が急制動され、ライダーは前方へ放り出されてしまう。同時に、この車両はバッテリー切れの際にも純粋な手動キックボードとして足で蹴って走れる機構を保つ必要があった。

動力の伝達と自由空転の両立を図るため、Abbondanzioは産業規格部品の大手McMaster-Carrから伝動部品を一式取り寄せた。中核となったのは長さ200mm、直径12mmのキー付き回転軸(Keyed Shaft)で、これを2個の6201-2RS深溝玉軸受と2個のCSK12PPワンウェイベアリング(One-way Bearing)で支持した。ワンウェイベアリングは自転車の後輪にあるラチェット式フリーホイールと同じ働きをする。ドリルが回転してトルクをかけると軸受内部がクサビ効果でロックし、4×4×12mmの平行キーを介してホイールハブを前進駆動する。ドリルを止めると前輪の回転速度が軸を上回り、軸受が瞬時に空転してフリーになる。数十ドルの市販ワンウェイベアリング2個により、厄介なクラッチ機構の課題を完全機械式かつメンテナンスフリーな設計へと昇華させた。

10本のM6ボルトで3Dプリントホイールを固定、強力トルクに立ち向かう

市販のRazor A5 Luxに備わる細いプラスチック製ホイールでは、太さ12mmのシャフトを収めることができず、ドリルの急激な立ち上がりトルクにも耐えられない。そこでAbbondanzioは3Dスキャナーを持ち出して車体前部を丸ごとスキャンし、CAD上で前輪を3ピース構造としてリバースエンジニアリングした。玩具同然のキックボードに産業用測定機器を投入するのは一見過剰装備だが、そのおかげでガタつきのない極めて精密なフィッティングが実現した。

3Dプリントされた前輪パーツと分割構造 図:3Dプリントされた前輪パーツ。回り止めキー溝、圧入式ベアリング、左右分割ハブ構造を示す。出典:Eddie Abbondanzio

樹脂プリント部品を駆動輪に採用する場合、層間剥離によるハブの破断や、リム上でタイヤが空転してスリップすることが懸念される。彼は左右の分割ハブに耐候性と剛性に優れた工業用樹脂ASAを用い、アウタータイヤには柔軟な熱可塑性ポリウレタン(TPU)を採用した。左右のハブは10本のM6×30mmボルトとナイロンナットで強固に挟み込まれる。さらに、5本あるスポークの合わせ面にはそれぞれ1/16インチの金属製キーストックを挟み込み、金属のせん断強度によってハブ同士の位相ズレを完全に封じ込めた。ハブ外周とTPUタイヤは圧入(スキッシュフィット)され、内面には噛み合い用のリブも設けた。せん断応力が集中する急所には金属規格品を配し、複雑な形状造形は3Dプリント樹脂に任せる。この2つの工法の補完関係により、家庭用3Dプリンターの出力品が過酷な走行荷重に耐え抜いた。

トリガーをハンドルへ移設し即ホイールスピン、剥き出し配線の生々しさ

機械的な動力伝達が形になった後、真の厄介ごととなったのは操作系だ。自然なライディングポジションを確保するためには、ドリル本体のグリップにあるスピードトリガーをハンドルの頂部へ移設しなければならない。ドリルの分解自体はチャック奥にある逆ネジを外すだけで済んだが、ハウジングを開けた瞬間、トリガー基盤の背面に張り巡らされた複雑な配線群が立ちはだかった。彼は配線を1本ずつ切断し、手持ちの12AWG太線と18AWG細線を手作業でハンダ付けして延長。保護スリーブすら省略し、色とりどりの電線束がステアリングコラムの外側に剥き出しのまま結束バンドで固定された。

ハンドルバーに移設された純正トリガー 図:ハンドルバーに移設された純正ドリルのトリガースイッチ。12AWGと18AWGのリード線を手作業で延長している。出典:Eddie Abbondanzio

さらに難儀したのが操作フィーリングだ。電動ドリルのトリガーはネジ締めや穴あけ作業向けに調整されており、ストロークが極めて短く、レスポンスが過激で、電動スクーターのスロットルのようなリニアな操作幅が存在しない。指先をほんの少し深く押し込んだだけで、20Vの最大トルクが一気に前輪に叩き込まれる。TPUタイヤが地面を激しく空転させてスキッドマークを残した直後、車体が急激に前方へ飛び出す。Abbondanzioが見出した妥協策は極めてシンプルだった。まず通常のキックボードと同じように足で地面を蹴って初速を稼ぎ、走り出してからトリガーを引いてモーターアシストを入れるというものだ。工具のスイッチを乗り物のスロットルに転用する以上、繊細な操作性の犠牲は避けられない代償だった。

経済的には1銭の得にもならず、得られたのは「モノをつくる手応え」

こうしたガレージでのDIY改造について、技術コミュニティには常に2つの対極的な評価軸が存在する。実用主義の立場から見れば、エントリークラスの市販電動キックボードは安価で入手でき、滑らかな正弦波インバーター、安全基準に適合したブレーキ、防水ハーネスを完備している。膨大な時間を費やしてベアリングを調達し、ホイールを3Dプリントし、鉄骨を溶接した挙句、発進時にタイヤスモークを上げ、航続距離わずか3.2kmの荒削りなマシンを作り出すのは、経済的にも実用面でも全く割に合わない。

しかし、メイカー精神が目指す帳尻は別の場所にある。商用の完成品が提供する利便性は、ブラックボックスという密閉構造の上に成り立っている。消費者は完成されたハードウェアの利用権を手に入れる代わりに、それを分解し、理解し、再構成する自由を手放している。Abbondanzio自身も、溶接機の消耗品、3Dプリント用フィラメント、Harbor Freight、Amazon、McMasterでの部品購入費用を合算した結果、今回の改造で金銭的な節約は一切できなかったと率直に認めている。

一見すると不採算に見えるこの試みこそが、ガレージエンジニアリングの真の価値を如実に物語っている。エンジニアがキックスクーターや20Vドリル、数個の規格ベアリングを単なる「原材料」として再定義できたとき、ハードウェア製造の主導権は工場の生産ラインから個人の作業机へと取り戻される。コスト削減は産業規模の量産が担う役割だ。身の回りの雑多なパーツを組み合わせて自走するマシンを仕立て上げる行為は、人間が手にする世界への設計の自由度を押し広げてくれる。

参考リンク:

  • Eddie Abbondanzioの個人ブログ「I Electrified My Push Scooter With A Power Drill」
  • HN ディスカッション